中部中日記

10月17日(日)NIE新聞活用 読売こども俳句 (校長先生より)

公開日
2021/10/17
更新日
2021/10/17

校長室

 国語が苦手、あるいは伸び悩んでいるという人にこそ、俳句がおすすめです。俳句の名手でもあった小説家、夏目漱石(なつめそうせき)は、俳句とは何かと聞かれ、レトリックの煎(せん)じ詰(つ)めたものだと答えました。つまり、言葉の技がぎゅっと詰まっているということ。短い言葉で伝える技術が、みなさんの国語力を鍛えるはずです。

2021年10月6日(水)読売新聞朝刊の「こども俳句」を紹介します。

兜虫(カブトムシ) ケンカにかって きずついた
(小学校5年生の作品)
※鬼に勝った桃太郎が、ケガをしている絵本は、見たことがありません。でも、現実には、戦いをすれば、勝者も敗者も傷つくのです。角が折れたり、羽が破れたりと痛ましい姿のカブトムシは、戦いのむなしさを私たちに突きつけます。

夏休み ひま人(じん)参上(さんじょう) ゴロッゴロ
(小学校6年生の作品)
※「参上」は、目上の人のところに出かけていくこと。ヒーローが、登場シーンで高らかに叫ぶ言葉ですね。この句は、夏休みにだらけてばかりという、あまりほめられないことを「ひま人参上」とかっこよく述べているのがゆかいでした。

いつもいく カナヘビさがし つかまえた
(小学校2年生の作品)
※石のかげや草の間などにかくれているカナヘビをさがすのって、どきどきしますよね。「いつもいく」に、カナヘビ愛が出ていて、いいなあ。俳句を通じて、好きなものを教えてもらうと、作者の個性がわかって楽しいですよね。

夏の蚊(か)は するどくさすよ ハチのよう
(小学校4年生の作品)
※実際には、蚊とハチではさされたときの痛みが違うわけですが、ここではレトリックの一つである誇張(こちょう)の表現が使われています。ハチのようにするどくさすと、おおげさに言うことによって、元気な夏の蚊のうっとうしさを伝えています。


食事中 はなびと思い 雷(かみなり)だ
(小学校5生の作品)
※花火と雷の音を間違えること、「あるある!」としきりにうなずきました。うまかったのは、「食事中」の導入部分。「あれっ、今日花火だった?」「ちがうよ、かみなりだよ」などという食卓の会話がこの導入の五音によって創造されるのです。

いちょうちる ばんそうこうを はがす朝
(小学校4年生の作品)
※学校に行く前 ばんそうこうを慎重にはがしています。おりしも銀杏(いちょう)の葉が黄色く染まって散る季節。全体的に秋の日らしい静けさがあります。そういえば、色や形がなんとなく似ている、銀杏(いちょう)の葉とばんそうこう。素敵な組み合わせですね。


【言葉のテクニック】 あいまいも許される自由さ

作文では、誰がいつ、どこでどうしたということをはっきりさせるべきです。でも、詩歌(しいか)においては、むしろあいまいに、ぼかしておくほうがおもしろくなります。

よろこべば しきりに落つる 木の実かな   富安風生

たとえばこの句は「よろこべば」と言っていますが、いったい誰がよろこんでいるのか、はっきりとしませんね。秋晴れゆえに、木がよろこび浮かれて木の実を降らせているのでしょうか? それとも、作者自身? 森の妖精みたいな存在かも。一つの正解を決める必要はないのです。様々な解釈ができるからこそ、何度読んでも飽きが来ません。そこが詩歌の強みです。
俳句や短歌は、いわば日本語の遊園地。きっちりした言葉に疲れた人が、ひととき遊ぶ場所として、うってつけの、自由な空間です。

(読売新聞2021年10月6日朝刊より)

中中生のみなさん。紅葉のシーズンです。木々の色が染まってきました。秋の季語を入れて、何か俳句を詠んでみてはどうでしょうか。