2月11日(水・祝) 伝える【少年の主張愛知県大会より】
- 公開日
- 2026/02/11
- 更新日
- 2026/02/11
校長室
中学校に「夢と希望と」をテーマにした「令和7年度少年の主張愛知県大会」の発表文集が届きました。みなさんと同じ世代の子たちが今伝えたいことをぜひ読んでほしい!感じたことを友だちや学校の先生、家族に話してみてほしい!そんな願いからHP記事で少しずつ紹介していきます。今回紹介するのは、文集の最後に紹介されていた「第47回少年の主張全国大会」の鳥取市立桜ヶ丘中学校3年の生徒の作品です。
題:伝える
手を挙げた瞬間、みんなの息を吸う音が聞こえる。そして合唱が始まる。穏やかに始まった合唱が坂を登るように盛り上がっていく。僕はどんなふうに歌ってほしいかを、手で、そして全身で表現する。音楽が弾ける。僕が好きな瞬間のひとつだ。
僕は中学校で、合唱コンクールの指揮者を三度務めた。今年の曲は「心の瞳」。練習はまだ始まったばかりだ。
僕が指揮をするのは、口唇口蓋裂という病気の影響がある。僕の唇では、歌う時に上手に発音をすることができないが、指揮者なら、みんなの役に立つことができるからだ。
僕は生まれた時、唇と上の顎が裂けていた。このままでは、母親の乳を吸うことができずに死んでしまう。成長しても唇の隙間から息が漏れてうまく話すことができない。僕は、生まれてすぐに手術を行なった。
顎と唇の隙間は一応塞がったものの、鳥取の病院では、それ以上の対応はできなかった。両親が必死になって探した岡山の病院で、赤ちゃんの僕はまた手術を受けた。手術を何度も繰り返し、何年も通院を繰り返した。今でも年に一度、岡山に通っている。そのおかげで、今では食事を取ることもできるし、会話することもできるようになっている。
しかし、人と話す時に心に引っ掛かりがあるのも事実だ。発音がしにくいので、僕の言葉がどう受け止められているのか、相手の表情を気にしながら話すこともある。実際、何度も聞き返されることや、発音のことをからかわれることがあった。何度も聞き返される時は、相手に対して申し訳ない気持ちになる。からかわれた時は、馬鹿にされたことに苛立ちを覚える。何を言っても無駄だと感じて諦めるときがある。
小さい頃、口元にマスクをつけた僕のことを、見知らぬ女性が「かわいいねぇ」と言った。しかし、マスクをとった僕の口元を見た女性は、僕のことを「かわいそうな子」と言ったそうだ。「かわいい」と「かわいそう」。わずかな違いかもしれない。けれど母にとっては大きな違いだった。「かわいそう」という言葉に、「不幸な子」という意味を感じたのかもしれない。母は「鉄馬は可哀想な子じゃない!」と強く言い返したという。
そんな母も、「こんな体で産んでしまってごめんね」 と口にしたことがある。そのとき僕は 「気にしてないし、大丈夫だで」 としか返せなかったけれど、両親にとても感謝しているのだ。この病気を治してくれるためにたくさんのことをしてもらった。歯の矯正をするにも、僕の場合は特別な処置が必要なので、岡山の歯科医に毎月通わせてもらっている。ほとんどの場合、父が送迎してくれる。こんなふうに、お金も、時間も、愛情もたくさんかけてくれた。僕の唇は、その証だから。
そんな僕が、中学一年生で合唱の指揮者になった。未経験のこの役割に強くひかれ、すぐ立候補した。実際にやってみると、どうやったら歌い手に的確に伝わるか、手で伝える面白さを知った。自分なりに指揮をアレンジして、どの部分をどう歌ってほしいのか、楽しみながら伝えることで、今までにない達成感を得られた。正しい発音は一つだけど、人を感動させる音楽は無限にある。僕は、僕の指揮でそれを表現できることに、言いようのない喜びを覚えた。指揮することで表現できる世界の広さは、僕が歌うことで表現できる世界を大きく飛び越えていった。
口唇口蓋裂の子供たちは、話すこと、表現することを躊躇しがちだ。でも、自分のことを伝えたい、表現したいと強く思っている。諦めずに伝えてほしい。言葉でも、それ以外でも、自分を表現する方法は、きっとある。伝えたい思いを受け止めあえたら、病気や障害、色々な違いにかかわらず、お互いの世界はもっと広がるはずだ。
今年の合唱曲「心の瞳」はこう始まる。
「心の瞳で君を見つめれば、愛すること、それがどんなことだか、分かりかけてきた」
言葉で言えない胸の暖かさを、見つめ合うことで伝えるという詩だ。
伝わる。きっと伝わる。だから伝えることを諦めないでほしい。言葉でも、音楽でも、見つめ合うことでも、自分らしいやり方が、きっとあるはずだ