7月18日(日)NIE新聞活用 読売こども俳句(校長先生より)
- 公開日
- 2021/07/18
- 更新日
- 2021/07/18
校長室
「おいしい季語」があるって知っていますか。今の時期ならさくらんぼやとうもろこし。アユやウナギも、そろそろ食べたくなりますね。おいしく食べて、おいしそうな句が詠めたら何よりですね。平安時代の和歌には、食べ物はあまり登場しません。味覚の表現は、俳句の得意とするところなのです。
2021年7月7日(水)読売新聞朝刊の「こども俳句」を紹介します。
かわいちまい とうもろこしが すけてるよ
(小学校1年生の作品)
※とうもろこしのかわをむき、とうとう最後の一枚に。おいしそうな黄色の列が、うすい皮の向こうに透けて見えているのです。かけっこで、もうすこしでゴールが見えた時のようなドキドキ感がこちらにも伝わってきます。
みみず見て カメ吉思い つかまえる
(小学校3年生の作品)
※夏の季語である「みみず」を使って、面白い句を作りました。カメ吉に食べさせてあげようと、ミミズを捕まえたというのです。飼っているカメの名前である「カメ吉」を句に入れたことで、愛情をもって育てていることがわかります。
夏の雲 でっかい顔で 笑ってる
(小学校4年生の作品)
※純白の積乱雲を思い浮かべました。顔の表情にはいろいろありますが、やはり夏の雲には、笑い顔が似合っています。大きな口からはなたれる、大きな笑い声が、青空いっぱいに響き渡るようですね。夏らしい生命力にあふれた一句。
ひまわりの 高さをこえる 日が来るか
(小学校4年生の作品)
※実際には大人になってもなかなかヒマワリの背丈はこえられませんが、「こえる日が来るか」というフレーズに静かな決意が込められていて、心をつかまれました。ヒマワリに負けないくらいの心意気で、未来をたぐりよせたいものです。
母の日に 慣れない手つきで 餃子(ギョウザ)焼く
(小学校6生の作品)
※お母さんのためにしてあげることとして、「餃子(ギョウザ)焼く」がとても具体的で、しかも個性的。この家ならではの「母の日」が詠まれていて、楽しませてもらいました。「うちではこうしているよ」などと、この句をきっかけに友達と会話がはずみそう。
服に付け 楽しみ尽くす 空蝉(うつせみ)で
(小学校6年生の作品)
※「空蝉」はセミのぬけがら。服にくっつける遊び、楽しいですよね。この句では、「楽しみ尽くす」というユニークな表現を使っていることが目を引きます。「空蝉」のものがなしい字面(じづら)に対して意外性のある、ほがらかでのびのびとした内容ですね。
【もっと伝わる直し方】 たった十七音に命かけ
東北の旅の途中、現在の山形県にある立石寺(りっしゃくじ)で詠んだとして、松尾芭蕉は紀行文「奥の細道」に次の句をのせています。
閑(しず)かさや 岩にしみ入る 蝉(せみ)の声
「推敲(すいこう)後」
山寺の静かさを詠んだこの有名な句、完成までにずいぶん苦労したようです。旅の相棒だった曽良(そら)が書き留めていたのは、
山寺や石にしみつく蝉の声
「推敲(すいこう)前」
という句でした。「しみつく」だと、なんだか蝉の声がべたべたしているみたいで、うるさい感じ。「しみ入る」とすると、すーっと岩の中に蝉の声が吸い込まれていくようで涼しげです。
芭蕉は別のところで、句を案じるのに、内臓がちぎれるような思いがしたと語っています。たった十七音の文芸に命をかけた人がいたのですね。
(読売新聞2021年7月7日朝刊より)
中中生のみなさん、もうすぐ夏休みですね。少しはゆとりができると思うので、おいしそうなものを題材に俳句を詠んでみてはどうでしょか。